千住宗臣
Muneomi Senju interview
__ ドラムの善し悪しというのは、基本的な技術の高さや、出る音の正確さもあると思うのですが、他のあらゆる楽器よりも、強弱やタイミングが過剰で大袈裟であるほど美しく響く楽器だなって千住くんをみて感じました。
時には静かに、時には熱く激しく・・・、その振れ幅が大きければ大きいほど、表情が豊かになったり、人に与える印象が強くなっていく。これって僕が千住君に対して感じた客観的な事なのですが、千住君自身、そこを意識してやっているか聞きたいです。また、漠然とした質問ですが、千住君にとってリズムでの表現とは何でしょうか?
千住( 以下S ) : ドラムというのはやっぱりものすごく身体的な楽器で、ゆえに人間性が一番出るものだと思います。そこが面白くもあり怖くもあるところですね。日常的に考えている事、感じている事が直接そのまま音になっていく。なんというか音の振動というのは、身体全体や細胞レベルまでもが感じ取っているので、そう言う事も含めて聞こえ方に繋がっていくのだと思っています。・・・だからあまり適当には音を出せないですね。
 そして、ドラムというとやはりリズムと結びつきやすいと思うのですが、僕はそうではないところの表現を常に考えています。例えばシンバルの何層にも重なる倍音だったり、タムのメロディーなど、まだまだドラムから引き出せる音色や表現は無限にあると思っています。だからどんなバンドをやっていてもあまりリズムだけを表現しているという感じではなくて、打楽器での表現自体が音楽のあらゆる要素を含んだ表現だと思ってやっています。ただ、やはり他の楽器以上にタイムキープしなければいけないという事もあるので、このあたりは、自分の心拍数やプレイする場所にかなり気を使っているのでとても難しいです。
__ 心拍数という言葉が出ましたが、千住君は高い技術力も凄くあるけど、身体的な部分も常にバランス良くキープさているような気がします。そのあたりで意識的に行っている生活やトレーニング方法はありますか?
S : 呼吸法は常にやっています。この呼吸法は村上ポンタ秀一さんから影響を受けたメソッドなのですが、ビートの間の無音部分を呼吸で操るというもので、これで様々なニュアンスを表現できるというものです。10年前に知ってから、これは未だにずっと練習していて非常に奥が深いです。
__ 10年というのは凄いですね。そもそも千住君がドラムを始めたのはいつですか?
S : 小学校5年生のとき転校して、そこの音楽室にたまたまドラムがあって、そこで興味を持ち始めました。放課後に用務員のおじさんに怒られるまで一人で叩いていましたね(笑)。
それからまた小学校6年生で転校して、高校1年生までドラムに触れる事ができず家で枕とか雑誌とかずっと叩いていました。なので、本格的には高校1年生の軽音楽部からです。
__ ソロ・ライブについてお聞きします。今年の3/7にやった千住君のソロ・ライブを観ました。あのときは、ライブ全体の構成や音の響き方などがとても素晴らしいと思いました。そしてサンプラーのような機材で実際のドラムにテクノロジーを連動させたやり方も面白かった。今後の千住君のソロ活動、ライブや制作活動はどんな感じになっていくのでしょうか?
S : ソロライブには何の制約もないのでそのときやりたいことをやっています。ここではドラムの可能性を探っていく作業と、楽曲の製作を同時にやっているという感じです。ドラムを叩きながら何か別の事をするのは結構大変なのですが、ライブの機会があればどんどんやっていきたいし、これからもどんどん面白い事をやっていきたいと思います。近い将来ソロの音源も何らかの形でリリースしたいと思っています。
__ 過密なライブスケジュールについてですが、webに掲載されているライブスケジュール、めちゃくちゃ過密ですね。しかもソロだったり、色々なバンドだったり同じ事の繰り返しではない沢山のライブをこなしていく、あのスケジュールをこなしていくうえで気をつけている事などあれば教えて下さい。
S : 多いですかね?自分ではまだまだという感じなのですが。気を付けている事はバンドによってのニュアンスの切り替えですかね。あとダブルブッキングかな(笑)。とりあえず、一つ一つを死ぬ気で真剣にやっています。そうしないとお客さんは感動してくれないと思うし二度と来てくれないと思っています。
__ 沢山のバンドに参加したり、色々なアーティスト達と共演したりして学んでいく事などはありますか?
S : 色々な場所で色々な人とやるので 臨機応変にその場の状況に反射的に対応できるようにはなったと思います。それぞれ音楽のアプローチも違うので、それを踏まえつつ自分の個性を出すという方法も学ぶことができます。死ぬまでにできるだけ沢山の人と音を出したいですね。
__ 僕が観たライブのなかで凄く印象的だったのが、千住君がアンコールで即興演奏せざるを得ない状況の時があって、その時の自由な演奏に千住君のセンスの良さを見た気がします。即興演奏について聞きたいと思うのですが、千住君のなかで即興演奏とはどういうものなのでしょうか?
S : 即興演奏は、既存の音楽形態からの脱却を狙って現れたものだと思うのですが、今はこの演奏形態自体が一つのジャンルになってしまっているという印象があります。すべての囲いをはずすつもりが、逆に<即興>という囲いを作ってしまっている。なので僕はこの即興演奏という枠の中から新しい音楽が生まれる気はしません。にもかかわらず僕が即興を続けているのは、たぶん囲いの外に出るためではなく、「その場で作曲をする」ということに価値を見出しているからですね。そしてお客さんと共に作曲過程の場を共有するという事も、重要な要素だと思っています。即興においては、お客さんの意識や気持ちが演奏の音にかなり影響するので。だから、なんというか目に見えないその他の色んなことまでもが重なり合って、その場に音楽が生まれるというのが僕の中での即興ではないでしょうか。そういう意味ではお客さんも演奏者ですね。そんな中で新しい音楽の兆しや気配を感じることができればうれしいです。
__ 場所やお客さんの波長を感じ取りながら曲を作っていく。それ自体が新しい視点の音楽かもしれないですね。
ウリチパン郡やPARAは演奏者みんながとても強い集中力で、没頭していく力が強くて、不思議と見ている側もどんどんそこに引き込まれていく感じがします。ここでも目に見えない何かが働いているような。音響や演奏技術などの一般論理的な要素の他に、そんな目に見えない何かが働いているような事を感じた事はありますか?
S : 演奏の中にツボみたいなものがあって、そこにスポっとはまれば演奏が流れるように進むという体験は毎回しています。
もちろんはまらないときもありますが。やっぱり何にも考えていなくて耳が開いている様な感覚のときはそのツボにハマりやすい気がします。メンバーのお互いの音を聞きあう事で、そのツボもみえやすくなります。
__ 次にPARAについて質問したいと思います。あの複雑なリズムパターンは本当に凄いですね。リズムやタイミングをとっていくだけでも相当大変な気がしますが、あれはどのような方法で作られていくのですか?
S : PARAの場合はあまり普通の価値観で良いとされるようなアプローチは避けています。最初は違和感があっても、あまり聞いた事のない響きやグルーヴを選ぶようにしています。リズムというよりドラムも曲のフレーズの一部として考えているので普通のアプローチではできないパターンが生まれたりします。色々な解釈でとれるような既存のリズムパターンをまずモチーフにして、そこから独自に広げていく感じです。
__ 理解しづらいリズムもずっとくり返していくと幻覚的に気持ちが良くなってくる感じはありますね。そして途中のフィルがさらに気持ち良さを出している。千住君のフィルのセンスが凄く好きなのですが、フィルの研究みたいなのはしているのですか?
S : まったくしてません。ただ、なるべくダサくなるように心がけてます(笑)。80年代の曲のシンセドラムのタムまわしのフィルとか大好きです。
__ 「ダサく」なるようにというのはとてもおもしろいですね。80年代のシンセドラムのタム回しのあのダサさはたまらないですよね、共感します。
それと千住君のドラムはアタックの音量に乱れが無いのが凄いと思います。打ち込みかと思うくらい、凄く安定している。これは意識的にやっているのですか?
S : 意識的にやっています。PARAの場合はこうすることによって、オーディエンスが実際に鳴っている音以外の音を聴き始める気がします。 色々な音の細分化された部分だったり、逆に自分の内面の音だったり。
僕はテクノなどを聴くときに、いつもその要素を感じます。このための練習方法は総合的なものなので説明するのは難しいですが、どんな状況でもぶれない気持ちの強さみたいなものもとても重要な気がします。やっぱり集中力ですかね。
Vol.2に続く・・・。

千住宗臣

2006年よりBOREDOMS a.k.a V∞REDOMSに加入。2008年6月脱退。
現在は山本精一率いるPARA、COMBO PIANO、ウリチパン郡、EYEとのデュオ・ユニットEYETHOUSANDTENのドラマーとして活動。
また原田郁子のソロ・アルバムやUAのアルバムに参加、SIGHBOAT(内田也哉子・鈴木正人・渡辺琢磨)のレコーディングとライブなどに参加の他、ISSEY MIYAKEのファッション・ショーとホーム・ページにドラムソロの提供、石橋英子×アチコのREMIXを手がけるなど、現在若手を代表するドラマー、クリエイターとして多岐にわたり活躍している。
→ 千住宗臣 Official Site